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2009年3月 4日 (水)

エッセイ

       みゆちゃん


一月二六日米子から来る鳥取行きのスーパー「松風」を倉吉駅のホームで待った。
ベンチに腰を下ろしまわりを見ると、右隣に若い母親が赤ちゃんを胸におくるみで包み座っている、大きな荷物が足もとに置かれ、ピンクの毛糸の帽子とオーヴァーを着た子がホームの右から左へとしっかりした足取りで行き来している。
 12時53分の列車の到着にはまだ少し間がある、父の先祖の墓参りもひざ上まで雪に埋もれながら済ませたし、伯耆大山もホテルの窓に位牌を立てて「あれが大山らしいね」と父との語らいの時間も持った
 倉吉は寂しい小さな町である、この生まれ故郷を捨てながら父は事があるたびにて「故郷(くに)へ帰ろう」の口癖が、母をどんなに悩ませたのか私は知らない。
遠く離れていればこそ、故郷は父にとって心の拠り所になっていたのかもしれないが。
 「みゆちゃん、あぶないよ」
隣のベンチの女性が、動き回っている女の子に声をかけた。
私の視線のすぐ先に、ピンクの帽子の紐を外しながら歩き回る女の子だ。。
「みゆちゃんおいで」私は、躊躇わずに声をかけた。。
人見知りする風でもなく側に着た子の帽子の紐を結びなおした。
「すみません・・」
 胸のなかに抱え込んだ赤ちゃんを揺らしながら若い女性が薄く笑った。
20代の後半かもしれない、やさしい表情ながら母親らしい落ち着きを見せている。
兵庫県の嫁ぎ先から実家の米子までの里帰りだと彼女が言った。お互いの現況を差し障りない部分だけ打ち明けながらも二人とも、みゆちゃんから目を離さなかった。胸に抱いてるのは男の子らしい・・
「みゆちゃんお年はいくつ?」
二本の指を見せてくれた、
「いまからおばあちゃんの所にいくんだね」
こっくりすると帽子についているボンボンがゆれた。
黒目がちな目が大きく勝気そうな表情が可愛い。
「男の従兄弟たちとばかり遊んでいるので元気すぎるんですよ」
若い母親は、遠慮がちながらことばを繋いでくれる。
 若い親子三人の姿に重なって私の胸に幼かったころの娘が浮かんできた。
「しょうちゃんばっかり、かわいいのね」
弟が生まれたころ三歳になった娘が唇を尖らせて母の私をなじった。
「そんなことないでしょ、正ちゃんは赤ちゃんだもん、なんにも一人じゃ出来ないのよ」
 若かった私がそのときの娘の心理を十分理解はしていても独占欲の強い娘に手を焼いたことも事実だった。
 後に息子のほうが先に逝くことをそのとき私たちは想像することは出来なかったのだったけれど。
結婚することなく人生の半分を一人で生きている娘もかつて彼女自身が吐いた
ことばを体験することなくこれからの人生を歩んでいかなければならない。
 「松風」がホームに滑り込んできた
みゆちゃんは、入ってきた列車を見上げながら、母親の側に寄り添っている。
「みゆちゃん、さようなら」
バックを肩に掛け足早に列車に乗ると窓際から見える姿に手を振った。
再び出会うことのない親子連れだった。

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